定期借家とは?普通借家との違いやメリット・デメリットも解説

2024年05月16日

賃貸物件の契約では、一般的に「普通借家」が用いられますが、ほかにも「定期借家」という契約形態があることをご存知でしょうか。定期借家契約は普通借家契約に比べると認知度があまり高くないため、馴染みがないという方も多いかもしれません。
両者の契約内容にはさまざまな相違点がありますが、最も大きな違いとなるのは契約期間です。

今回は定期借家契約と普通借家契約の違いをはじめ、それぞれのメリットとデメリットを紹介します。

定期借家制度とは?

定期借家制度(定期建物賃貸借制度)とは、契約満了によって更新されずに契約が終了する、建物賃貸借契約における契約形態の一つです。この制度は、優良な賃貸住宅等の供給を促進する目的で、1999(平成11)年に成立した「良質な賃貸住宅等の供給の促進に関する特別措置法」に基づき、2000(平成12)年に施行されました。

定期借家制度の大きな特徴は、あらかじめ物件の契約期間が定められていることです。定期借家制度では、基本的に契約更新はできず、賃貸期間が満了すると契約は終了します。
仮に、借主が契約の更新を望む場合は貸主との合意が必要で、双方が合意できれば引き続き居住を続けることが可能です。ただし、契約の更新という形にはならないため、それまでの契約をいったん終了させて、再契約を結ぶことになります。

定期借家制度の目的

定期借家制度は、次のような理由によって導入されました。

良質な賃貸住宅の供給を増やすために貸主の不利を是正する

普通借家契約では、契約期間が満了しても正当な理由がない限り契約が更新されるため、良識のない借主が居座ってしまう可能性も考えられます。その場合、貸主側がそのような入居者に退去してほしければ、多額の立ち退き料を支払わなければならなくなることがあるのです。

定期借家制度は、こういった貸主の不利を是正し、安心して賃貸できる環境を整えるために導入されました。
あらかじめ契約期間を設けることで、貸主は、借主との間に何らかの問題が発生した場合でも、契約満了とともに借主に退去を要請しやすくなります。契約が自動的に更新されなければ、悪質な借主が居座り続けることもなく、入居者の良好な環境の維持にもつながるでしょう。

定期借家制度は、賃貸経営におけるリスクを軽減するものであり、ウィークリーマンションやマンスリーマンションなどでも多く利用されています。

賃貸住宅市場における選択肢の充実

定期借家には、通常の賃貸用住宅以外にも多様な物件が用いられています。物件の詳細は次の章で紹介しますが、空き家の有効活用もその例です。

賃貸住宅を経営する方にとっては、定期借家にすることで契約期間や収益見通しの不確実性を払拭することができます。

定期借家が広がることで、持ち家の賃貸をはじめとした家族向けの良質な賃貸住宅などの多様な住宅サービスが供給され、物件の選択肢が広がることが期待されています。

定期借家が用いられるケース

定期借家には、おもに次のような物件が多く用いられています。

●建物の取り壊しが予定されている古い物件
●リロケーション物件(持ち主が転勤や海外赴任などの事情で、一時的に不在になる間だけ自宅を貸し出す賃貸形態)
●不動産所有者の何らかの事情(売却を検討している、あるいは一定期間後に持ち主自身が住むなど)により、空き家の状態が続いている物件

定期借家制度は、さまざまな理由により一定期間だけ自宅等の物件を貸し出したいと考えている貸主において、とても有効な制度といえるでしょう。

定期借家契約と普通借家契約の違い

定期借家契約と普通借家契約では、取り決めや条件などが異なります。

普通借家契約では、通常、契約期間は1年以上(2年契約が多い)で設定されており、借主が引き続き居住を希望する場合は、そのまま契約の更新が可能です。

一方、定期借家の契約期間は1年未満~3年などさまざまですが、前述のとおり基本的には更新ができません。

また、1年以上の定期借家契約を結ぶ場合は、期間満了の1年から6ヵ月前までに、貸主は借主に対して契約終了を通知する義務があります。通知を行なわなければ、仮に契約終了の件でトラブルが起きた場合、借主に対して主張することができなくなる恐れがあるため、注意が必要です。

その他、定期借家契約と普通借家契約は、契約方法などにも違いがあります。

定期借家を利用するメリット・デメリットとは?

普通借家契約は、正当な事由がない限り簡単に入居者に退去してもらうことができないため、借主側の権利のほうが強い契約形態といえるかもしれません。

これに対し、定期借家契約は、借主が引き続き住むことを希望した場合でも、期間満了とともに契約が終了するため(例外を除く)、貸主側のほうが有利になる契約といえるでしょう。

とはいえ、定期借家契約は、貸主と借主の双方にメリット・デメリットがあります。

定期借家を利用するうえで、貸主側と借主側のそれぞれに、どのようなメリット・デメリットがあるのかを紹介します。

定期借家を利用するメリット

<貸主側>
●あらかじめ賃貸期間を定めることで、入居者が賃貸料金の滞納をしたり、ルール違反を起こしたりしないかを見極められる
●悪質な入居者がいても、賃貸期間が満了すると再契約を結ばない選択ができ、入居者の良好な環境を維持することができる
●自身が将来利用したり、売却したりする予定の物件を貸し出せる
●家賃による将来の収益予測が立てやすい

<借主側>
●定期借家は、賃料が相場より下げられていたり、礼金を不要としたりするケースが多い傾向にあり、好条件の物件を相場よりも安く借りられることがある
●短期間(1年以下)での契約ができるため、建て替えやリフォームなどの際の一時的な住まいとしての利用も可能
●定期借家に用いられるリロケーション物件のなかには、普通借家では賃貸に出てこないような広い物件や、高級な物件がある。また、分譲マンションや一戸建てなどの、好条件の物件を借りられるケースがある

定期借家を利用するデメリット(注意点)

<貸主側>
●賃料を相場より下げなくてはならない可能性がある
●契約期間が限定されているため、借り手がつきにくいこともある

<借主側>
●基本的には再契約ができず、長く住み続けるには不向き
●賃貸期間満了後に引き続き居住を望む場合は、貸主の同意を得なければならない。ただし、同意が得られた場合でも、契約更新ではなく再契約という形式になり、原則として新たに初期費用がかかる
●中途解約が原則として認められていないため、中途解約で違約金が発生することもある。ただし、床面積200平方メートル未満の居住用建物の契約で、転勤、療養などやむを得ない事情がある場合は、1ヵ月前に申し入れることで中途解約ができる

なお、定期借家物件のなかには、取り壊す予定があるような古い物件の場合、設備などに不具合があっても対応してもらえないケースがあります。借りる前に必ず内見して、設備や建物の状態をしっかりと確認しておきましょう。

定期借家契約はどのような人に向いている?

定期借家は相場よりも家賃が抑えられているうえ、好条件の物件が多いのも特長ですが、自身の希望による更新ができません。このような特性から、定期借家は次のような方におすすめの契約方法といえるでしょう。

●一人暮らしの方
●家賃や初期費用を抑えて短期間だけ住みたい方
●入居者とのトラブルに巻き込まれたくない方
●短期出張や転勤、引越しなど、さまざまな事情で期間限定の仮住まいを探している方
●通常の家賃相場よりも安い価格で条件の良い物件に住みたい方

定期借家の利用割合はどれくらい?

日本では、定期借家契約はほとんど利用されていません。国土交通省「令和4年度住宅市場動向調査」によると、賃貸契約の利用割合は普通借家契約が94.8%に対し、定期借家契約は2.1%となっています。さらに、定期借家を「知っている」と答えた方が12.3%、「名前だけは知っている」と答えた方が25.5%です。

以上の結果から、定期借家の利用者が少ない理由の一つは、認知度の低さにあることがうかがえます。あまり一般的ではないために、定期借家が避けられる傾向があるのかもしれません。

定期借家の認知度を高めて需要を増やすには、借主側に定期借家の利点を正しく伝えることや、適したターゲット層(一時的な滞在者やビジネス出張者など)へのさらなるアプローチが必要になるでしょう。

出典:国土交通省「令和4年度住宅市場動向調査」

定期借家契約に必要な要件

定期借家契約を締結する際には、次の要件をすべて満たす必要があります。

●書面で契約を行なう
●契約期間を定める
●更新否定条項を設ける

書面で契約を行なう

普通借家契約は口頭で合意した場合でも成立することがありますが、定期借家契約では、公正証書、または通常の書面で契約を締結する必要があります。

契約期間を定める

普通借家契約では契約期間を定めないケースもありますが、定期借家契約の場合は必ず契約期間を定めておかなければなりません(借地借家法38条1項)。

参考:借地借家法 第三十八条|e-Gov法令検索

更新否定条項を設ける

貸主は借主に対して、契約締結前に、期間の満了により契約が終了する(契約の更新がなされない)旨を書面で交付し、口頭で説明しておく必要があります。なお、この書面は賃貸借契約書とは別に交付しなければなりません。

過去には、事前説明の際に書面がなかったことで、裁判によって定期借家契約が無効になった例もあります。

まとめ

定期借家契約とは、契約の期間があらかじめ設定されている賃貸借契約です。契約期間が満了すると、貸主との間に更新の合意がない限り賃貸借契約が終了します。
そのため、長く住み続けたい方には不向きですが、さまざまな理由で一定期間だけ住みたい方などには、メリットのある契約形態といえるかもしれません。

また、定期借家は普通借家に比べ賃貸料金が低めに設定されていることが多く、物件数は圧倒的に少ないものの、ライフプランによっては有効な選択肢となることもあります。

定期借家契約と普通借家契約のメリットとデメリットを踏まえ、それぞれのライフスタイルに合わせて最適な契約形態を選びましょう。

■監修者

氏名:太田 照明
保有資格:損害保険トータルプランナー、生命保険協会認定FP、CFP、1級FP技能士
主なキャリア:大学を卒業後、自動車と外食産業の営業を経験し、その後保険業界へ。