不動産取引における仲介手数料の計算方法|速算法との違いや上限額も解説

2024年05月31日

不動産の仲介手数料は、取引物件の価格によって上限が決まっています。その上限を知っておけば、不動産会社の比較検討も進めやすくなるでしょう。また、不動産取引の前に、綿密な資金計画を立てるうえでも、仲介手数料の上限額を把握しておくことは大切です。
※仲介手数料の上限は宅地建物取引業法に定められており、業としてそれを受け取れるのは宅地建物取引業者のみとなります

この記事では、不動産取引でかかる仲介手数料の概要を確認したうえで、不動産の「売買」と「賃貸」における仲介手数料の上限と計算方法を紹介します。将来的な不動産取引に向けて準備を進めている方は、ぜひ参考にしてください。

不動産の仲介手数料とは

不動産の仲介手数料の計算方法などについて把握し、適切な対応を進めるうえでは、まずそもそも仲介手数料とは何なのかを理解しておくことが大切です。この章では、不動産取引における仲介手数料の概要を解説しましょう。

不動産の売買取引における仲介手数料とは

住宅・マンション・土地などの売買取引をする場合、媒介契約を締結したうえで不動産会社に仲介をお願いすることが一般的です。売り主と契約締結した不動産会社は、家や土地を売るまでに必要な以下ステップや手続きについて、サポートをする形です。

●不動産の売却活動
●購入希望者への内見案内
●条件交渉
●書類(重要事項説明書・売買契約書など)の作成
●重要事項の説明
●不動産の引き渡し など

不動産取引の仲介手数料は、上記の一連の活動に対して支払われるお金のことです。成功報酬なので売買契約が成立しない場合は発生しません。
「営業活動への成功報酬」と「各種手続きの代行費用」と考えると、イメージしやすいかもしれません。

なお、一般的な仲介業務に含まれない以下のような仕事をお願いした場合、仲介手数料とは別に費用が請求されることがあります。

●売り主の希望で、遠隔地の購入希望者の元へ行き、交渉などを行なった場合の交通費や宿泊費
●売り主の希望で、一般的ではない特殊な宣伝広告を行なった場合の費用 など

仲介手数料は「誰から誰」に支払われる?

不動産売買における仲介手数料は、「売り主と買い主のそれぞれ」が「不動産会社に対して」支払うのが原則です。ただ、誰がどの不動産会社に支払うかは、1つの不動産を売買するために関わった不動産会社の「数」で変わってきます。

まず、1つの不動産会社が売り主と買い主の両方と媒介契約を締結した場合、売り主と買い主の両方から仲介手数料を受け取れます。この形を「両手取引」と呼びます。

一方で、売り主は「業者A」と媒介契約を締結し、購入希望者は「業者B」と契約した結果、不動産の売買取引が成立するケースもあるでしょう。この場合、それぞれが契約した不動産会社に仲介手数料を支払うことになります。

このように2つの会社が関係する形態を、いわゆる「片手取引」と呼びます。

仲介手数料を支払う2つのタイミングと理由

通常の売買取引では、仲介手数料を以下のタイミングで半額ずつ支払うのが一般的です。

●売買契約時:5割
●引き渡し時:残りの5割

多くの取引では、契約と引き渡しの間に1ヵ月ほどの時間が空くことが一般的です。そのため、この1ヵ月の最初と最後に支払いをするイメージになります。

なお、厳密な話をすれば、不動産会社側には、売買契約が発生した時点で仲介手数料を全額請求する権利が発生します。ただ、売買契約後~引き渡しまでには多くの業務が残っているため、それらが終わらないうちに全額支払ってしまうと、依頼者にとって「仕事が雑になる」などの不安要素が生じることもあるでしょう。

「売買契約時に5割・引き渡し時に5割」の慣習は、こうした不安を解消し不動産会社に取引の最後まで頑張ってもらうために、根付いたものとされています。また、買い主は売買契約書を受け取ってからでないと住宅ローンの審査に進むことができません。売買契約から引き渡しまでに1ヵ月ほどの時間がかかる背景には、そういう事情もあります。

不動産売買における仲介手数料の支払い方法

仲介手数料の支払い方法は、「現金払い」が原則です。売り主は、買い主から受け取った以下のお金で仲介手数料を払うケースが多くなっています。

●売買契約時:買い主から支払われた手付金
●引き渡し日:売買代金

なお、各銀行のATMでは、1日あたりの利用限度額を設定しています。ATMから多額の現金を出金するときには注意が必要です。ただ、あまりに大金を持ち歩くことが不安な場合、振込手数料を売り主が負担することで、銀行振込で仲介手数料を支払えることもあります。銀行振込を希望する際には、不動産会社に相談しましょう。

不動産の賃貸取引における仲介手数料

ここまでは売買取引の話をしてきましたが、アパートなどの住宅や店舗物件などの賃貸でも、当然のことながら仲介手数料は発生します。

賃貸の場合も「営業活動への成功報酬」と「各種手続きの代行費用」という2つの内訳は売買と同じです。ただ、売買と賃貸では不動産会社の業務内容も大きく変わってくるため、これから紹介する費用に関する内容には、それぞれに別のルールが定められています。

不動産売買の仲介手数料における上限と計算方法

不動産会社が設定する仲介手数料は、いくらでも良いわけではありません。不動産の仲介手数料は、法律で定められた上限金額の計算式に基づき算出され、その範囲内で設定されることになります。

それはつまり、提示される仲介手数料の金額も、不動産会社によって異なることを意味します。したがって、不動産取引の仲介業者を選ぶ際には、仲介手数料の比較をすることも大切です。

ここではまず、不動産「売買」の上限金額と計算式を見ていきましょう。

不動産売買における仲介手数料の上限金額と計算式

売買取引で不動産会社が受け取れる仲介手数料の上限金額を算出するための計算式は、取引物件価格ごとに以下のように定められています。

出典:国土交通省『宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買等に関して受けることができる報酬の額』第二 売買又は交換の媒介に関する報酬の額

仲介手数料を算出する式の問題点と速算法

例えば、3,000万円の物件を売買する場合、上記のとおりに金額を分割し、①~③の計算式を使ってそれぞれの仲介手数料を算出したうえで、合算する必要があります。

【①取引額200万円以下の仲介手数料】⇒200万円×5%+消費税=11万円
【②取引額200万円を超え400万円以下の仲介手数料】⇒200万円×4%+消費税=8万8,000円
【③取引額400万円を超える仲介手数料】⇒2,600万円×3%+消費税=85万8,000円

【3,000万円を売買した場合の仲介手数料(①+②+③)】⇒105万6,000円

以上のように200万円以上の物件を売買する場合、①+②もしくは①+②+③の計算をする必要があります。しかし、いくつもの物件に対してこうした複雑な計算をしていては事務手続き上も非常に大変です。

実際の現場では、複雑な計算式による問題を解消するために、以下の速算法を利用して仲介手数料の計算が行なわれています。

先述の3,000万円の物件を売買する場合、速算法の式を使って計算すると、先ほどの基本式と同じ計算結果(105万6,000円)になります。

取引物件価格(税抜)×3%+6万円+消費税=3,000万円×3%+6万円+消費税=96万円+消費税(9万6千円)=105万6,000円

不動産売買における仲介手数料の特例

通常の不動産売買であれば、上記の速算式で算出した金額のなかに現地調査費用などを含め、取引に関するすべての内容が含まれています。しかし、取引対象の不動産が低廉な空き家などである場合、不動産会社は速算式で算出した金額に加え、現地調査などの費用を別途請求することが可能です。

ただし、以下の条件の場合、不動産会社が受け取れる売り主からの報酬について、18万円の1.1倍を超えてはならないという特例があります。

●売買価格が400万円以下(税抜き)である
●媒介契約時、不動産会社(宅地建物取引業者)は売り主にあらかじめ当該事項を説明し、両者の間で合意する

これにともない、取引価格が低くなるほど、別途請求の上乗せが多くなることになります。

なお、この特例の対象となるのは「売り主の仲介手数料のみ」です。買い主の仲介手数料は、従来どおりの方法で計算します。

出典:国土交通省『宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買に関して受けることができる報酬の額』第七 空き家等の売買又は交換に媒介における特例

不動産賃貸の仲介手数料における上限と計算方法

賃貸契約の場合、「家賃の1ヵ月分+消費税」が上限と決められています。この上限の範囲内であれば、貸主である大家さんと借主の入居者のどちらからも仲介手数料を受け取ることが可能です。例えば、以下のようなイメージになります。

●大家さんから0,5ヵ月分、入居者から0.5ヵ月分
●大家さんだけから1ヵ月分(入居者は無料)
●入居者だけから1ヵ月分(大家さんは無料) など

まとめ

不動産仲介取引の仲介手数料は、売買と賃貸で上限の算出方法が異なります。不動産売買の計算式は少し複雑ですが、速算法を使うことで簡単に算出することが可能です。

なお、不動産取引の仲介手数料は、法律で定められた上限の範囲内で各不動産会社が自由に設定することが可能となります。そのため、仲介業者を選ぶときには、仲介手数料の比較もしたほうがよいでしょう。

■監修者

名前:齋藤 彩(さいとう あや)
所有資格:CFP(Certified Financial Planner)、1級FP技能士、薬剤師免許

おもなキャリア:
急性期総合病院において薬剤師として勤める中、がん患者さんから「治療費が高くてこれ以上治療を継続できない」と相談を受けたことを機にお金の勉強を開始。ひとりの人を健康とお金の両面からサポートすることを目標にファイナンシャルプランナーとなることを決意。現在は個人の相談業務・執筆活動を行っている。