不動産所得の計算で経費にできる費用とは?範囲や注意点も解説

2024年03月21日

不動産投資では、収益を得るためにさまざまな費用が発生します。基本的には賃貸経営に直接かかった費用は経費として認められますが、これから不動産投資を始める方や始めたばかりの方は、具体的にどのような費用が該当するのか、よくわからない方もいるでしょう。

この記事では、不動産所得の計算で経費にできる費用の種類や範囲、注意点を解説します。確定申告を正しく行なうためのみならず、不動産投資の節税メリットを最大限に活かすためにも、経費の考え方について理解しておきましょう。

不動産所得における経費の考え方

不動産所得とは、所有する不動産を貸し出すことにより得られた収入から、かかった経費を差し引いた金額のことです。経費とは、収入を得るために直接支出した費用を指します。 
不動産投資にあたり、経費清算が重要な理由は2つあります。

一つは、正しく確定申告を行なうためです。自営業者はもちろん、会社員の場合も給与以外の所得が年間20万円を超える場合には、確定申告が必要になります。

不動産投資による所得には、所得税や住民税がかかります。そのため、不動産収入から正しく経費を差し引いていない場合には、余分な税金を支払うことになりかねません。逆に、経費として認められない費用を計上していると、税務調査を受けて追徴課税を受ける可能性もあるでしょう。

確定申告を正しく行なうためには、不動産所得で経費と認められる費用やその範囲を知ることが重要です。

もう一つは、不動産投資の節税効果を利用するためです。

不動産所得は、給与所得や事業所得、配当所得など総合課税の対象となる所得との間で、損益通算が認められています。不動産所得が帳簿上赤字になれば、対象となる所得の利益と相殺することで、課税所得を減らせるのです。

不動産投資では家賃収入を得る過程でさまざまな費用がかかるため、実際のお金の出入り(キャッシュフロー)は黒字でも、帳簿上では赤字になることが少なくありません。

不動産所得の損益通算による節税効果は、本業の収入が大きい人ほど大きくなります。経費を正しく把握し確実に計上することは、節税面でも大変重要です。

不動産所得の計算で経費にできる費用一覧

不動産所得の計算にあたり、経費にできるおもな費用を紹介します。実際に費用を支出していなくても経費にできる費用もあるため、計上漏れがないようにしましょう。

減価償却費

減価償却とは、資産の購入費用を使用可能期間に分配して費用を計上する処理です。不動産の場合は、経年劣化によって資産価値が下がる建物や構造物の目減り分を、減価償却費として経費計上できます。その際、実際の支出はともないません。

減価償却の「定額法」では、取得費用を法定耐用年数で割って算出した金額を、ゼロになるまで毎年計上します。法定耐用年数は建物の種類や構造により決まっており、賃貸経営など事業用に用いる建物の場合、木造では22年、RC造では47年となっています。強固な建造物ほど長い期間をかけて減価償却を行なう仕組みです。

なお、法定耐用年数を超えた建物の場合は、本来の法定耐用年数に20%を乗じた期間が耐用年数となります。

租税公課

租税公課とは、税金などの費用を指す勘定科目です。

不動産投資においては、不動産所有者に毎年課税される固定資産税や都市計画税は経費計上可能です。不動産を取得した際に課税される不動産取得税や不動産を登記する際に必要な登録免除税や印紙税も経費として計上できます。

また、賃貸経営が一定以上の事業規模と認定された場合に課税される個人事業税についても、経費計上が可能です。

ただし、個人に課税される所得税や住民税は、賃貸経営に直接かかる費用ではないため計上できません。

修繕費

修繕費は、劣化や損傷に対して原状回復を図るために必要な費用や、設備の維持管理に必要な費用を指します。

例えば、退去発生時のクリーニング費用や壁紙の張替え費用、給湯器の交換、外壁の塗装費用、雨漏りなどによる屋根の修理費用、共用部分のメンテナンス費用などです。いずれも、修繕費とするには、修繕前と性能が同等でなければなりません。

このほか、マンションで必要になる修繕積立金も、修繕費として計上できます。

保険料

賃貸経営では、災害などのリスクに備えるために損害保険への加入が大切です。火災保険や地震保険、施設賠償責任保険などはすべて経費計上できます。

災害や事故などが原因で家賃収入が得られなくなった場合に補償を受けられる、家賃補償保険や孤独死保険なども経費の対象です。

ただし、火災保険など複数年分の保険料を一括して支払った場合には、支払った年に一括して経費計上するわけではなく、いったん前払費用として計上し、当年分ごとに分けて経費化しなければなりません。

借入金利息

収益物件を購入した際に、不動産投資ローンを利用する方も多いでしょう。不動産投資ローンで発生する利息は、経費計上が可能です。

ただし、不動産所得が赤字の場合は、損益通算の取り扱いが変わるため注意が必要です。

不動産所得は赤字の場合、給与所得や事業所得などほかの所得から赤字分を差し引ける損益通算が可能です。しかし、損益通算の際、土地部分にかかる借入金利息(土地負債利子)は除外しなければなりません。

そのため、借入金利息は経費として計上できますが、赤字の際は、損益通算において赤字から土地負債利子を差し引いた額で行ないます。

その他の費用

その他にも、不動産投資において発生する費用で経費化できるものには以下が挙げられます。

・入居者募集の際に発生する広告宣伝費や仲介手数料
・管理会社に管理を委託する場合の管理委託料
・共用部分の保守にかかる管理費
・司法書士や税理士への報酬

これらはいずれも不動産投資に関する費用であり、経費に該当します。

また、青色申告者で家族を従業員としている場合の給与についても経費計上が可能です。ただし、実態にそぐわない高額な給与は認められないケースもあります。また、税務調査の対象となる恐れもあるため実態に即している金額かは慎重に判断しましょう。

不動産所得の計算で注意が必要な費用

不動産投資にかかる費用のなかには、計上範囲を誤ってしまうと脱税と判断されるおそれがある費用もあります。
ここからは、経費計上について注意が必要な費用について見ていきましょう。

不動産投資に関わる部分のみを計上できる費用

不動産投資に関係する費用であっても、プライベートでも利用できる費用については、全額の費用計上はできません。不動産投資で使用した分について按分が必要です。

・旅費・交通費
・車両に関わる費用
・通信費
・接待交際費
・書籍の費用

不動産投資では、物件訪問や契約のための移動に交通機関や車両を使う機会もあります。そのため、不動産投資に関連して発生した旅費交通費のほか、車両の購入費用や維持費用、自動車税なども計上可能です。

また、管理会社や入居者との連絡で使用する携帯電話料金や情報収集に使用するインターネット接続料金などの通信費、打ち合わせの際に使用した飲食代などの接待交際費も経費化可能です。このほか、不動産投資について学ぶために書籍を購入した場合は、その費用も計上できます。

ただし、いずれも不動産投資に関連しないことには経費計上できません。不動産投資について使用する分のみを按分して計上する必要があります。

リフォーム費用は一括で計上できない

修繕費は経費計上できますが、リフォームや設備の改良など物件の価値を高めたり、使用可能期間を長くしたりするための費用については取り扱いが異なります。

物件の価値を高めるための費用は、原則資本的支出に該当します。資本的支出は減価償却で複数年にわけての経費計上が必要です。原状回復のための修繕費のように、かかった費用を一括で計上することはできません。

不動産投資においては、修繕費として一括計上したほうがその年の所得が少なくなるため、税制上有利になりますが、本来は資本的支出に該当するものを修繕費に計上していると、税務署の確認が入るおそれもあるため、注意してください。

不動産所得で経費計上できない費用

不動産投資に関連して使用した費用であっても、経費計上できない費用もあります。誤って計上することがないようにしましょう。

私的利用と判断される費用

スーツやビジネスバッグなどのファッションアイテムについては、管理会社や金融機関との打ち合わせのみに使用するために不動産投資のために購入したとしても、経費計上はできません。

また、不動産投資と関係のない飲食費などのプライベートな出費も私的利用と判断されるため、経費にはできません。

反則金や罰金

物件の訪問や管理に車を使用する場合、途中でスピード違反や駐車違反を起こしてしまい、反則金や罰金を科されることもあるでしょう。

車に関する費用は事業での用途の分のみ経費に計上できますが、反則金や罰金は対象外です。ただし、例外としてレッカー代については経費計上できます。

資格取得費用

不動産投資に関する学習にかかった費用は、経費として認められます。しかし、不動産に関連していても、資格取得費用は経費にできません。

経費として計上できるのは、不動産投資に取り組むうえで必要な費用です。不動産投資において資格は必須ではなく、あくまで個人のスキルアップとみなされるため、経費の対象外になります。

まとめ

不動産投資に直接かかる費用は原則経費にでき、家賃収入から差し引くことが可能です。

不動産投資は経費をコントロールすることで、収益率が高まります。正しく漏れがないように計上しましょう。

※現行税制に基づくものであること。※2024年2月時点
※組合事業としての不動産所得の場合には扱いが異なる場合がございます。

■監修者

名前:齋藤 彩(さいとう あや)
所有資格:AFP(Affiliated Financial Planner)、薬剤師免許、1級FP技能士

おもなキャリア:
急性期総合病院において薬剤師として勤める中、がん患者さんから「治療費が高くてこれ以上治療を継続できない」と相談を受けたことを機にお金の勉強を開始。ひとりの人を健康とお金の両面からサポートすることを目標にファイナンシャルプランナーとなることを決意。現在は個人の相談業務・執筆活動を行っている。