社会保険料はいくら引かれる?標準報酬月額と社会保険の計算方法

2024年02月15日

社会保険は会社員であれば加入が必須で、生活で起こりうるリスクを保障する大切なものです。しかし、社会保険料が給料から天引きされるため、総支給額から手取りが減ってしまうことも事実です。社会保険料はどのように計算されるのか、気になる方もいるでしょう。

この記事では、社会保険料の種類、保険料の算出に用いる標準報酬月額と標準賞与額について解説します。

保険料の負担が必要な社会保険の種類

社会保険制度とは、社会生活で起こりうるリスクに備える公的保険制度のことです。病気やケガ、失業、介護、労働災害などのリスクが保障されるため、安心して働くことができます。

社会保険の種類は、健康保険、介護保険、厚生年金保険、労災保険、雇用保険に分類されます。社会保険に加入するのは、サラリーマンなどの給与所得者が対象です。公務員は健康保険ではなく共済組合、年金はサラリーマンと同じ厚生年金保険に加入します。

なお、社会保険料のうち、給料から天引きされるのは健康保険と介護保険、厚生年金保険、雇用保険です。健康保険と介護保険、厚生年金保険の場合、会社と労働者で保険料を折半することが基本です。

介護保険料の徴収が始まるのは満40歳以上のため、40歳未満の方は介護保険料を負担する必要はありません。また、労災保険はほかの社会保険と異なり、企業側が保険料の全額を負担します。

社会保険の計算に用いる標準報酬月額とは?

健康保険と介護保険、厚生年金保険の保険料は、標準報酬月額をもとに算出します。標準報酬月額とは、手当を含めた税引き前の給与月額を、一定の幅で区分したものです。

標準報酬月額は毎年実施する定時改定に加え、報酬が変わるタイミングで定期的に改定を行ないます。固定的な給与が大幅に変動したときの随時改定、産前産後・育児休業終了時などが挙げられます。

なお、定時改定は、毎年4~6月の3ヵ月間の平均額をもとに、新たな標準報酬月額が毎年9月に発表されます。

標準報酬月額の算出における給与月額のうち、報酬に含むもの、含まないものを以下に紹介します。

標準報酬月額に含むもの 標準報酬月額に含まれないもの
  • 基本給
  • 能力給
  • 奨励給
  • 役職手当
  • 通勤手当
  • 勤務地手当
  • 特別勤務手当
  • 住宅手当
  • 家族手当
  • 扶養手当
  • 日直手当
  • 宿直手当 
  • 早出残業手当 
  • 年4回以上の賞与 など
  • 結婚祝い金
  • 出産祝い金
  • 見舞金
  • 慶弔費
  • 交際費
  • 出張旅費
  • 傷病手当金
  • 労災保険の休業補償給付
  • 年3回以下の賞与
  • 制服 
  • 食事 
  • 通勤定期券
  • 社宅 など

 

標準報酬月額に該当するものは労働の対価として支給される報酬で、一時的な手当や現物は報酬に含みません。

なお、標準報酬月額を用いて社会保険料を算出する際、報酬ごとに等級が割り振られます。等級の区分は社会保険の種類で異なり、健康保険は1~50等級、厚生年金保険は1~32等級で区分されます。

社会保険料はいくら引かれる?保険料の計算方法

労災保険を除き、給料から天引きされる社会保険の計算方法について解説します。

健康保険

健康保険料の基本的な計算方法は、「標準報酬月額×保険料率÷2」です。

ただし、健康保険の保険料率は、会社が加入する健康保険組合によって変動します。健康保険は、中小企業が加入する「全国健康保険協会(以下協会けんぽ)」、大企業やグループ会社が加入する「健康保険組合」の2種類です。

協会けんぽは都道府県ごとに保険料率を定めるため、地域によって収める保険料が異なります。なお、健康保険の計算で用いる保険料率は、居住地ではなく企業がある所在地の料率を使用します。

所在地が東京都の場合、令和5年度の健康保険料率は10%です。標準報酬月額30万円を例にすると、実際の保険料は「30万円×10%÷2=1万5,000円」になります。

ただし、わざわざ計算して保険料を求める必要はなく、「健康保険・厚生年金保険の保険料額表」を用いて保険料を確認するのが一般的です。東京都の「健康保険・厚生年金保険の保険料額表」には、10%の料率で収めるべき保険料が以下のように一覧で表示されています。

引用:令和5年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表|全国健康保険協会

標準報酬月額30万円の欄にある、「折半額」が労働者の収める保険料です。

一方、健康保険組合の場合、組合の財政に応じて独自に保険料率を決められます。協会けんぽは労使による折半が基本ですが、健康保険組合は事業主の負担を増やすことも可能です。

そのため、協会けんぽと比べて健康保険組合の保険料が安く、高額療養費制度や傷病手当金などの付加給付により手厚い保障が受けられます。具体的な保険料は、会社が加入する健康保険組合で確認する必要があります。

介護保険

40~64歳の方は、第2号被保険者として介護保険に加入します。介護保険料は健康保険と合算され、折半した金額が給料から天引きされます。

協会けんぽの場合、令和5年度の介護保険料率は1.82%です。ただし、健康保険と異なり、介護保険の料率は全国で一律です。

標準報酬月額30万円とすると、介護保険料は「30万円×1.82%÷2=2,730円」になります。健康保険・厚生年金保険の保険料額表を利用する際は、「介護保険第2号被保険者に該当する場合」の折半額に、健康保険料と合算された金額が記載されています。

第2号被保険者は要支援・要介護の認定を受けない限り、介護保険証が交付されることはありません。一方、65歳以上は第1号被保険者に該当するため、自治体で計算される基準額、または所得状況で算出されます。

なお、大企業が加入する健康保険組合の場合、介護保険料も組合の財政によって保険料率が決まります。保険料率は組合によって異なり、協会けんぽと比べて保険料率が低いことが一般的です。

厚生年金保険

厚生年金保険料率は全国一律で、令和5年度の保険料率は全額で18.3%です。ただし、健康保険と同様に保険料は労使で折半するため、実質の負担割合は9.15%となります。

厚生年金保険の計算方法は、「標準報酬月額×保険料率」で、健康保険と変わりません。ただし、冒頭で述べたように、健康保険の標準報酬月額は1~50等級、厚生年金保険は1~32等級という違いがあります。

健康保険の1等級は5万8,000円、上限の50等級は139万円で、厚生年金保険の1等級は8万8,000円、32等級は65万円です。つまり、厚生年金保険の場合、給料がどれだけ上がっても標準報酬月額で65万円以上は保険料が変わらないことを意味します。

標準報酬月額30万円を例にすると、「30万円×9.15%=2万7,450円」です。健康保険・厚生年金保険の保険料額表で確認する場合、表の右端に健康保険とは別の欄で記載されています。

雇用保険

雇用保険は、失業や退職後の生活を支える失業等給付、育児休業給付などの支援を行なう社会保険の一つです。

雇用保険料においては標準報酬月額を使用せず、基本給や賞与、手当を含めた賃金で保険料を算出します。賃金に雇用保険料率をかけ算すれば、毎月の雇用保険料を求めることが可能です。ただし、標準報酬月額と同様に、一時的な手当や現物は賃金に含みません。

雇用保険は毎年4月1日から新しい料率が適用され、保険料率は業種によって異なります。令和5年の一般の事業の保険料率は6/1,000(0.6%)となっています。賃金30万円を例にすると、雇用保険は「30万円×6/1,000=1,800円」です。

なお、なお、就業状況が不安定な農林水産業、清酒製造業、建設業の保険料率は7/1,000に引き上げられています。

賞与から引かれる社会保険料の計算方法

賞与も毎月の給料と同様、健康保険料・介護保険料、厚生年金保険料、雇用保険料が天引きされます。

賞与から天引きされる社会保険料は、「標準賞与額」に基づいて算出します。標準賞与額とは、税引き前の賞与の総支給額から、1,000円未満を切り捨てた金額のことです。賞与の総支給額が35万6,500円の場合、標準賞与額は35万6,000円になります。

標準賞与額は年3回以下の支給が対象で、年4回以上ある場合は標準報酬月額に含まれます。また、標準賞与額は上限があり、健康保険では年度累計で573万円、厚生年金保険では1ヵ月150万円です。

賞与に対する社会保険料の計算式、および保険料率は給料の内容と同様です。東京都で協会けんぽに加入する企業の場合、各社会保険料の計算式、保険料率は次のとおりです。

・健康保険料:標準賞与額×10%÷2
・健康保険料+介護保険料:標準賞与額×1.182%÷2
・厚生年金保険料:標準賞与額×18.3%÷2
・雇用保険料:標準賞与額×6/1,000

なお、健康保険組合においても、標準賞与額と毎月の健康保険料と同じ保険料率で保険料を算出します。

まとめ

健康保険と介護保険、厚生年金保険は標準報酬月額、雇用保険は毎月の賃金から算出します。協会けんぽは都道府県で保険料率が決まりますが、大企業が加入する健康保険組合は組合で保険料率が異なるため、確認が必要です。

この機会にご自身の社会保険料がいくらなのか確認してみることをおすすめします。

■監修者

氏名:赤上 直紀(あかがみ・なおき)
保有資格:1級ファイナンシャル・プランニング技能士
主なキャリア:元銀行員。資産運用やローンを通じて、多くのお客様のライフプランニングに携わる。現在は、編集者として金融機関を中心に、ウェブコンテンツの編集・執筆業務を行う。