税込み計算の方法とは?不動産投資ではどのような場合に消費税がかかるのか解説
2024年05月16日
「不動産投資ではどのような取引で消費税がかかるのだろうか?」「家賃は消費税がかからないというのは本当だろうか?」と疑問に思っている方もいるのではないでしょうか。不動産投資は、消費税がかかる取引とかからない取引が混在しており、わかりにくい面があります。
そこで本記事では、消費税の課税対象となる取引と対象外の取引の違い、不動産投資でどのような場合に消費税がかかるのか、税込み計算の方法、消費税の納税義務や納税額の計算方法などを解説します。
そもそも消費税とは
そもそも消費税とは、商品を購入したりサービスを受けたりする際にかかる税金で、年齢や働いているかどうかにかかわらず、広く公平に負担しなければならないものです。
消費税の負担者は消費者ですが、納税者は事業者です。所得税や住民税などのように負担者と納税者が同じ税は直接税、消費税のように負担者と納税者が異なる税は間接税と呼ばれます。
軽減税率とは
軽減税率とは、特定の商品や製品の消費税率を通常より低くする制度です。
日本では、消費税率が10%に引き上げられた際に、低所得者への配慮の観点から、特定の商品の税率が8%に抑えられています。軽減税率が適用されている商品・製品は、「酒類・外食を除く飲食料品」および「定期購読契約が締結された週2回以上発行される新聞」です。
インボイス制度とは
インボイス制度とは、仕入税額控除の適用を受けるために、適格請求書(インボイス)等の保存が必要となる仕組みです。
仕入税額控除は、消費税の納税額を計算する際に必要になるもので、仕入税額控除が多ければそれだけ消費税の納税額が少なくなります。
インボイスを発行するには、税務署に申請して適格請求書発行事業者にならなければなりません。インボイスを発行できない免税事業者から仕入れをすると、仕入税額控除の適用が受けられず納税額が増えるため、課税事業者にとって不利になるケースがあります。
例えば、店舗として不動産を貸し出している貸主が免税事業者の場合、課税事業者の借主は仕入税額控除の適用が受けられません。そのため、店舗の家賃の値下げを要求されたり、借主がほかの物件へ転居したりする可能性があるでしょう。
消費税の対象となる取引とは
世の中で行なわれている取引を、消費税の対象となるかどうかで分類すると、「課税対象の取引」「課税対象外の取引(不課税取引)」「非課税の取引」に分けられます。それぞれの取引がどのようなものか解説します。
課税対象の取引
課税対象の取引とは、事業者が「資産の譲渡」「資産の貸付け」「役務の提供」を事業として行ない、対価を得る場合が該当します。事業者は法人、個人事業主どちらも対象です。
資産の譲渡とは商品の売買など、資産の貸付けは不動産の賃貸借やカーレンタルなど、役務の提供は運送や飲食などのいわゆるサービスの提供が該当します。また、これらのほかに外国から商品を輸入する取引も課税対象です。
つまり、対価を得て行なう取引のほとんどは課税対象の取引となるでしょう。
課税対象外の取引(不課税取引)
課税対象にならない取引(不課税取引)とは、事業以外の取引や対価を得ずに行なう取引など、先ほど課税対象の取引で説明した要件に当てはまらない取引です。該当する具体例には以下が挙げられます。
●給与、賃金
●寄附金、祝金、見舞金、補助金など
●保険金、共済金
●株式の配当金
非課税の取引
非課税の取引とは、消費税の課税対象としてなじまないものや、社会政策的配慮から課税されていない取引のことです。以下にいくつか具体例を挙げておきます。
●土地の譲渡、貸付け(一時的なものを除く)
●有価証券、支払い手段(小切手、手形など)の譲渡
●利子、保証料、保険料など
●居住用住宅の貸付け(一時的なものを除く)
●住民票発行などの行政手数料
●社会保険医療費など
●一定の学校の授業料など
不動産投資ではどのような場合に消費税がかかる?
不動産投資ではどのような取引で消費税がかかるのでしょうか。売買時と運用時に分けて解説します。
不動産の売買時に消費税の対象となる取引
不動産の売買時に消費税の対象となる取引としては「事業としての建物の売買」が該当します。また、「仲介手数料」や「司法書士に支払う手数料」も消費税の対象です。
個人で自宅などを売買する際や、事業者であっても自宅など住居用の建物を売却する際は、消費税がかかりません。逆に、個人であっても不動産投資の場合は事業扱いになり、消費税の対象となります。
なお、土地の売買は非課税取引に当たり、事業として売買する際でも消費税はかかりません。土地は消費されるものではないことが非課税の理由とされています。
不動産の運用時に消費税の対象となる取引
不動産の運用時に消費税の対象となる取引としては「事業用の家賃」が該当するケースがあります。「居住用の家賃」や「居住用の礼金」は非課税です。居住用と事業用が混在している物件では、面積比で不動産所得を割って事業用分の消費税額を算出します。
また、家賃のほかに管理費や共益費があるときは、家賃と同じ扱いです。つまり、事業用で家賃が消費税の対象であれば消費税の対象となり、居住用なら非課税となります。ただし、居住用であっても、水道料金などを管理費や共益費として徴収している場合は、消費税の対象です。
さらに、駐車場は土地の賃貸ではなく設備の賃貸とみなされるため、原則として消費税の対象です。
ただし、フェンスや区画を設けるなどの整備を行なわずに、駐車場として土地を使う場合は非課税となります。駐車場付きのアパートやマンションの場合は、以下すべての条件を満たせば非課税となります。
●1戸につき1台以上の駐車スペースが確保されている
●車の有無にかかわらず、全住戸に駐車スペースが割り当てられている
●家賃に駐車場代が含まれている(家賃と駐車場代を別々に徴収していない)
消費税の納税義務
消費税の納税義務は、課税期間の基準期間または特定期間の課税売上高が1,000万円を超える事業者に課せられており、課税事業者と呼ばれます。基準期間と特定期間の課税売上高が1,000万円以下である事業者は免税事業者です。
基準期間とは、個人事業主だと前々年、法人だと前々事業年度のことです。特定期間とは、個人事業主だと前年の1月1日から6月30日までの間、法人だと前事業年度開始の日から6ヵ月の期間をいいます。
例えば、個人事業主で課税期間が2024年の場合、その年に免税事業者になるには、基準期間である2022年の課税売上高が1,000万円以下で、なおかつ特定期間である2023年1月1日から6月30日までの課税売上高等が1,000万円以下である必要があります。
不動産投資で収入がある場合は、消費税の課税対象となる取引だけを合算します。非課税となる居住用の家賃収入などは含めないように注意しましょう。
また、不動産投資とは別の事業で売上がある場合は、それらと合算する必要があります。合算すると1,000万円を超えているケースもあるため注意しましょう。
税込み価格や税抜き価格の計算方法
次に、税込み価格や税抜き価格の計算方法を解説します。税率が10%の場合、計算方法は以下のとおりです。
●税込み価格=商品価格×1.1
●消費税額=商品価格×0.1
●税抜き価格=税込み価格÷1.1
計算した結果、小数点以下の端数が出た場合の処理は事業者ごとに異なり、切り上げ、切り下げ、四捨五入のなかから選びます。
投資用不動産の売買では、土地と建物の価格を合わせた金額で取引が行なわれ、消費税額がわからないことがあります。消費税が課税されるのは建物のみのため、建物の消費税額を知るには、固定資産税評価額などに基づいて土地と建物の金額を合理的に分けたうえで、消費税率を適用しなければなりません。
納税額の計算方法
一般的に、商品は製造業者から消費者に届くまでの間に、複数の中間取引を挟んでいます。消費税は中間取引で二重三重に課税されないように、売上にかかる消費税額から仕入れにかかる消費税額を差し引いて、差額を納税する仕組みです。
具体的な計算方法としては「一般課税」「簡易課税」の2種類があります。これら2つの計算方法の違いのほか、現在行なわれている「2割特例」による計算も解説します。
一般課税の場合
一般課税とは、すべての取引を集計して納税額を計算する方法で、計算式は「納税額=課税売上にかかる消費税額-課税仕入れなどにかかる消費税額」です。
標準税率と軽減税率が混在しているときは、それぞれの税率で計算したうえで最後に合算します。
仕入れなどにかかる消費税額を控除するためには、帳簿や請求書などを保存しなければなりません。
簡易課税の場合
簡易課税とは、基準期間の課税売上高が5,000万円以下の事業者が税務署へあらかじめ届け出ることで、納税額の計算を簡単に行なえる方法です。計算式は「納税額=課税売上にかかる消費税額-(課税売上にかかる消費税額×みなし仕入率)」です。
みなし仕入率は事業区分ごとに40~90%で設定されており、例えば不動産賃貸だと、みなし仕入率は40%に設定されています。
2割特例
2023年10月1日からインボイス制度が導入されました。免税事業者がインボイス制度に対応すると、2023年10月1日から2026年9月30日までの日の属する各課税期間で、納税額を「売上にかかる消費税額×0.2」に大幅に減額できる2割特例が適用されます。
2割特例は一般課税、簡易課税のどちらでも適用可能です。
まとめ
不動産取引で消費税の課税対象となるのは、事業としての建物の売買や、事業用の家賃です。一方、土地の売買や居住用の家賃などは非課税取引に該当します。不動産売買では、土地と建物を合わせた金額で取引するケースが多いため、消費税額の計算を自分で行なわれなければなりません。
消費税の納税義務があるのは、一定の期間に消費税の対象となる課税取引が1,000万円を超える場合です。不動産投資以外の事業売上がある場合は、それらとの合算になるため注意しましょう。納税額の計算方法には一般課税と簡易課税があり、一定条件を満たせば簡易課税が選択できます。
不動産取引をしていれば、税金の計算は避けられません。消費税の仕組みをしっかりと理解し、誤りのないように納税しましょう。
■監修者
名前:齋藤 彩(さいとう あや)
所有資格:CFP(Certified Financial Planner)、1級FP技能士、薬剤師免許
おもなキャリア:
急性期総合病院において薬剤師として勤める中、がん患者さんから「治療費が高くてこれ以上治療を継続できない」と相談を受けたことを機にお金の勉強を開始。ひとりの人を健康とお金の両面からサポートすることを目標にファイナンシャルプランナーとなることを決意。現在は個人の相談業務・執筆活動を行っている。