FXの税に関する基礎知識|損失でも確定申告すべきケースや申告分離課税の概要などを解説
2024年04月24日
FXでの利益にかかる税は、FX初心者の多くが関心を持つテーマでしょう。できるだけ節税したい方の場合、税率だけでなく損益通算できるかどうかなども気になるかもしれません。
この記事では、FXに関する税の基礎知識を詳しく解説します。記事の後半では、確定申告の必要条件なども紹介するので、ぜひ参考にしてください。
FX利益と税に関する基礎知識
FX(外国為替証拠金取引)で利益を得ると、ほかの投資商品と同様に税が課せられ、FXで損益が出た際には確定申告を行なう場合があります。
ここではまず、FXにおける税の基礎知識として、FXの利益と所得の種類、FXの課税方式である「申告分離課税」などの概要をわかりやすく解説します。
なお、FXの課税関係に関しては、国税庁のホームページや最寄りの税務署でもご確認ください。
参考:国税庁「No.1521 外国為替証拠金取引(FX)の課税関係」
FX利益と所得の種類
FXの税について考える際には、まず課税対象となる1年間の利益を以下の式で算出します。
FXによる利益(所得)=為替差益+スワップポイントによる利益-諸経費
為替差益とは、売買時の為替レートの差により獲得できる利益のことで、スワップポイントとは、売買時の金利差により獲得できる利益のことです。
そして諸経費は、FXを行なう際に必要となる以下のような費用を指します。
●取引手数料
●通信料金
●FXセミナーの受講料
●FXの学習に使った書籍代
●取引用パソコンの購入費用 など
また所得は、その性質ごとに次の10種類に分けられます。
●利子所得:預貯金・公社債の利子、公社債投資信託・合同運用信託・公募公社債等運用投資信託の収益分配にかかる所得
●配当所得:出資者や株主が企業から受ける配当金、投資信託(公社債投資信託や公募公社債等運用投資信託を除く)、特定受益証券発行信託の収益分配などにかかる所得
●不動産所得:建物・土地などの不動産、不動産上に存在する借地権などの権利、船舶や航空機の貸し付け(地上権または永小作権の設定その他、不動産等を他人に使用させることを含む)による所得(事業所得や譲渡所得に該当するものは除く)
●事業所得:農業・製造業・漁業・小売業・卸売業・サービス業・その他の事業から生ずる所得(山林譲渡や不動産の貸し付けで生じる所得は、原則として山林所得や不動産所得に該当)
●給与所得:勤務先からの給料・賞与などの所得
●退職所得:勤務先から受ける退職手当、厚生年金基金等の加入員の退職によって支払われる厚生年金保険法に基づく一時金などの所得
●山林所得:山林を立木のまま譲渡したり、伐採して譲渡したりして発生する所得(山林を取得して5年以内に伐採や譲渡をした場合は、事業所得か雑所得に該当)
●譲渡所得:建物・土地・ゴルフ会員権などの資産譲渡で生じる所得、建物などの所有することを目的とした地上権などの設定による所得(事業用商品などの棚卸資産、減価償却資産、山林のうち一定のものなどの譲渡により発生した所得を除く)
●一時所得:上記の利子所得から譲渡所得のいずれの所得にも該当せず、営利目的の継続的行為から生じた所得以外のもので、労務その他の役務の対価としての性質や資産譲渡による対価としての性質を持たない一時的に得られた所得
●雑所得:上記の利子所得から一時所得のいずれの所得にもあたらないもの
なお、FXで得られる利益(所得)は「雑所得」に該当します。その他、雑所得に含まれるものには、公的年金や原稿料・講演料(メインの仕事として行なっていない場合)などが挙げられます。
FX利益で得た所得は「申告分離課税」の対象
雑所得に含まれるものでも、所得の種類によって課税方式が以下のように異なります。
「総合課税」の対象となる雑所得 | 「申告分離課税」の対象となる雑所得 |
●厚生年金、国民年金、確定拠出企業年金、確定給付企業年金、一定の外国年金、恩給などの所得 ●原稿料、講演料、生命保険から支払われる年金など、ほかの所得に該当しない所得 ●仮想通貨(暗号資産) |
●一定の先物取引による所得(金融商品先物取引、商品先物取引、カバードワラント) ●FX ●CFD ●先物●オプション |
総合課税とは、納税者の所得のうち総合課税の対象となるものをすべて合算し、課税所得を算出するものです。例えば、会社員として給料をもらいながら、自分で不動産投資を行なっている人の場合、給与所得と不動産所得はすべて総合課税の対象となるため、合算して課税所得の計算を行なえます。
これに対して申告分離課税は、ほかの所得金額との合算をせず、その所得のみで税額計算をするものです。例えば、会社員として給与所得のある人がFXを行なっている場合、給与所得は総合課税、FXの利益は申告分離課税で計算することになります。
FX利益に対する税率と2種類の税金
FXの利益にかかる税率は、一律20.315%です。その内訳は、以下のようになります。
●所得税(復興特別所得税を含む):15.315%
●住民税:5%
所得税は個人が1年間(1月1日~12月31日)の間に得た所得に課せられる国税で、住民税は都道府県や市区町村が課す地方税です。
また復興特別所得税は2013~2037年の間、基準所得税額に対して2.1%の割合で課せられる付加税です。
FX利益の確定申告が必要・不要となる条件
FXによる利益は申告分離課税となるため、基本は確定申告が必要になりますが、一部例外もあります。FX利益の確定申告に関する基本条件を確認しておきましょう。
FX利益の確定申告が不要となる基本条件
以下いずれかの条件に該当する場合には、原則として確定申告は不要です。
1.以下の条件をすべて満たす専業主婦(主夫)、扶養家族など
●【1】FX利益を含めた、先物取引に係る雑所得等の年間合計所得が48万円以下
●上記【1】の所得とパートタイム・アルバイトなどの給与所得の合計が103万円以下
2.以下の条件をすべて満たす会社員
●年間の給与収入額が2,000万円以下
●給与を受けているのが1つの会社のみで、その給与がすべて源泉徴収の対象
●給与所得や退職所得を除く所得の年間合計額が20万円以下
なお、ほかの所得の状況次第では確定申告の必要性が生じる可能性があるので、詳細は税務署に確認しましょう。
FX利益の確定申告が必要な人の条件
以下のいずれかの条件に該当する場合には、確定申告が必要です。
1.年間の給与収入額が2,000万円を超えている会社員
2.2つ以上の会社から源泉徴収の対象となる給与を受けており、年末調整されなかった給3.与収入が20万円を超える会社員
4.個人事業主
5.住宅ローン控除(初年度)や医療費控除などを利用する
また、FX利益を含む、先物取引に係る雑所得等の合計額が20万円を超える場合には、以下に該当する方も確定申告が必要です。
1.年間の給与収入額が2,000万円以下の会社員
2.公的年金による収入が年間400万円以下
なお、ここで紹介した内容は一般的なケースであり、確定申告が必要かどうかの具体的な判断は、ほかの所得状況によって異なります。そのため、詳細は国税庁の以下ページもしくは最寄りの税務署に確認しましょう。
参考:国税庁「確定申告が必要な方」
国税庁「No.1900 給与所得者で確定申告が必要な人」
FXで損失が出たときに確定申告すべき理由
FXで損失が出た際には、利益が出ず課税対象にならないため、確定申告をする必要がないように感じられるかもしれません。しかしFXでは、損失が出たときに確定申告を行なったほうが良いケースもあります。
ここでは、その理由として2つ解説します。
損益通算できる
損益通算とは、法律で定められた所得の範囲内で、同一年分の利益と損失の合算をすることです。FXの損益との損益通算が可能な「法律で定められた所得の範囲内」とは、先物取引に係る雑所得等に含まれる、次のようなものを指します。
●他社でのFX取引
●株の先物取引
●商品先物取引
●カバードワラント
●CFD取引 など
例えば、FXの「銘柄A」で損失を出しても、他社で行なったFXの「銘柄B」や「商品先物取引」で高い利益を出していれば、確定申告により利益から損失を差し引いて課税所得を押さえることが可能です。
上記のとおり、FXの損益と損益通算できるのは、先物取引に係る雑所得等に含まれるもののみです。それ他の株式や暗号通貨などとの損益通算は行なえない点に注意しましょう。
3年間にわたってFX損失の繰越し控除ができる
FXで生じた損失をその年の利益により相殺しきれなかった場合には、翌年以降の3年間にわたって損失を繰り越せます。これを「繰越し控除」と呼びます。
なお、繰越し控除を利用するためには、確定申告を毎年行なうことが必要です。
まとめ
FX取引で利益が出ると税金がかかります。しかしFX取引の利益にかかる税金は株式の配当金や投資信託の分配金などのように源泉徴収されないため、基本的には確定申告をしなければなりません。またFXで損失が発生した場合は確定申告をしなくても問題ありませんが、損益通算や損失の繰越控除を利用すると確定申告で節税や税金対策ができることを知っておきましょう。
■監修者
名前:齋藤 彩(さいとう あや)
所有資格:CFP(Certified Financial Planner)、1級FP技能士、薬剤師免許
おもなキャリア:
急性期総合病院において薬剤師として勤める中、がん患者さんから「治療費が高くてこれ以上治療を継続できない」と相談を受けたことを機にお金の勉強を開始。ひとりの人を健康とお金の両面からサポートすることを目標にファイナンシャルプランナーとなることを決意。現在は個人の相談業務・執筆活動を行っている。